学院長式辞

2001年4月11日


 

 

皆さん,入学おめでとうございます。
 
京都は1200年の歴史を持つ由緒ある歴史都市であり,数々のノーベル賞学者を生んだ学術都市です。また近年は,日本経済の不況にもかかわらず,京セラ,ローム,村田製作所,堀場製作所,日本電産,任天堂など最先端企業が京都を本拠に健闘しています。この京都において,コンピュータ技術の勉強をしようと入学した皆さんに対し,時代・社会に目を向け,いくつかの問題をお話したく存じます。
 
さて,コンピュータ,インターネットの急激な進歩・普及により,500年単位といわれる巨大な社会変化がハイスピードで起こっています。
 
機械を主体とする工業化社会では「製品」が商品でした。しかし情報・知識を主体とする「デジタル社会」では,どうサービス化するかがビジネスの中心課題であり,「知識」「サービス」が商品です。顧客のニーズをキャッチして,IT技術によりシステム化し,そのサービスの対価としてお金を得るという新ビジネスは,ソリューションビジネスと呼ばれていますが,この場合,顧客のニーズといっても直接に表現される従来の問題解決型でなく,顧客を囲い込んだ中での「問題発見」への取組みが肝要となっています。ハードも,ソフトも,ネットも「情報」と解釈すれば,誰もが入手できる情報をどう組み立てるかが,ビジネスの差をつける決め手になります。この組み立てに優秀な頭脳が必要なのです。「情報」の組み立てが「知識」となり,その実施は「知価」となります。人間の感性,表現力がパワーを発揮するわけです。創造的な思考と直感のもと,卓抜したアイデアで新しいビジネス・モデルを創り出さねばなりません。すべての企業はそういう才能をもつ人材を求めているのです。
 
企業には,このビジネスに適合した経営革命が迫られています。国内外を問わず企業は「経営革新の問題解決」と「新しいビジネス・モデルの創造」を2本の柱に「ITソリューション」戦略を揚げ,しのぎを削っています。
 
従来,企業の経営革新・問題解決は,定型業務の改善と効率化でした。IT時代においては,業務の効率化・合理化という単純な次元でなく,工業化社会型から高度情報化社会型への企業構造の変換が目的となります。この経営革新は「創造のための破壊」と言ってよいでしょう。従来の構造を「スクラップ・アンド・ビルド」することが必要です。
 
明治以来,日本の高等教育は「知識の伝授・吸収」でした。この類型的な教育パターンによって育成された頭脳は,今日的な「生きた頭脳」として働きません。社会へ出ても「先人に学び,先人に習う」のが鉄則でした。この学習のプロセスは創造性とはほど遠いものです。今,時代の流れ,社会の変化は,先人のつくった道を創造的に破壊する,そして再創造することを要請しています。「知識の伝授・吸収」から「創造性育成」への教育改革が急務です。
歴史学者 アルビン・トフラーの言うように,「学んで棄て,また学び直す(learn,unlearn,relearn)」という柔軟な頭脳による学びのプロセスが創造への道なのです。
 
さて,企業経営革新のひとつとして,「所有のシステム」から「利用のシステム」への移行が見られます。
例えば,土地・建物のレンタル化,制作工程の部分的アウトソーシング化などです。このアウトソーシングは,まさに「利用」の典型です。これらの「所有型システム」から「利用型システム」への移行も,不透明な将来に備えての敏速な変換の対応を考慮してのことなのです。
 
もう一つ,企業経営革新としては,企業間の横の連携の趨勢です。従来,企業間の壁は厚く,特に同業種間では,競争意識はあっても協調ムードはありませんでした。企業内部の縦型の固定的な関係を絶対視せず,もっと柔軟に敏速に外壁を越えて,流動的に横社会と協調し,ビジネスを強化していこうという,いわば企業間のバリア・フリー化,シームレス化が実現しています。
 
利用型システムが進行し企業の外壁が崩れ始めると,年功序列・終身雇用の人材所有型の見直しが迫られてくるでしょう。そしてその延長に,大半の人材が所有型から利用型へ移されていくでしょう。このようにして,企業のバーチャル化がどんどん進行していくのが,IT革命の第2フェイズなのです。
 
皆さんは,Linuxというソフトをご存知ですか。リーナス・トーバルズという学生が,ホームページに内容を全部オープンし,外部の情報技術者のボランタリー参加を求めて作ったソフトです。オープンソースとして無償で公開され,すでにLinux標準仕様のパソコンも出荷され,800万人のユーザーが存在しています。ビル・ゲーツを蒼ざめさせたこのソフトの作成プロセスは,まさにバーチャル・コーポレーションの構図です。会社のプロジェクトを企業内自社員が行うという様式でなく,プロジェクトを立ち上げ,ネット上いろんな人が自由に参加して仕上げる横型オープン方式に先駆性があるのです。企業がバーチャル化するということは,一つの建物の中に集まって社員が仕事をするという形態の単なる消滅でなく,社員を固定しないで,時と場合に応じて,必要な人材を呼びかけ参加させるという,いわば会社の境界のファジー化と考えてよいでしょう。ただし,中核だけはしっかりしていること,その信頼性が確立されていることが肝要です。プロジェクトを立ち上げて,ネット上にオープンし,仕事する人間だけが自由に流動的にプロジェクトに参加し,プロジェクトが完成すれば散っていく。このような,バーチャル・カンパニー化が進み始めると,「企業人」は「職業人」に姿を変えていきます。会社のイメージとしての建物・施設・設備・従業員という要素は,すべてファジー化・流動化し,会社 イコール プロジェクトに帰結されます。
 
このような企業のバーチャル化は,ITの進歩・浸透があればこそ起こるわけです。近未来のバーチャル企業社会到来を想定して,皆さんはより一層,自分の実力を付け,才能に磨きをかけておかねばなりません。
ところで,現代,爆発的な伸びを示している「Business to Business」略してB to Bといわれる企業・組織間の問題提携型ビジネスや,「Business to Consumer(消費者)」略してB to Cといわれるマーケット創造型ビジネスは,インターネットによる情報のオープン性とインタラクティブ性の結果生まれたのです。意思決定と行動のスピードを加速させたのも,インターネットあればこそです。
 
インターネットに起因するもう一つの地殻変動と言えるものは,ベンチャー企業の台頭です。インターネットによって実現した「情報のオープン化」「情報の平等化」「情報の共有化」の社会は,草の根の人々の自由な台頭を可能にしました。「情報の自由化」の土壌において,ITは個人に真っ先に有利に働き,従来の企業が構造変換に四苦八苦している中で,草の根から生まれた傑出した頭脳を持つ個人は,新しいビジネスモデルを創出し,次々とベンチャー企業を起こしています。
 
「強い技術力」「卓抜したアイデア」「明確なビジョン」,この三つはベンチャーの必須条件です。ベンチャー企業は「情報と頭脳」を武器に,IT革命の波に乗り,ダイナミックに経済社会を変えていくでしょう。
 
資金も信用もないベンチャーを助けようという創業支援が,官庁・自治体・民間で現れてきています。協力し合える横企業の紹介とか,設備の整ったオフィスの無料使用とか,信用を保証する審査会の誕生などです。
 
かつて,学院を巣立った皆さんの先輩は,次々とソフトウェアのベンチャー企業を起こしました。何の支援システムもなかった当時と比べて,現在の環境は大変に有利です。皆さんの中から,次代を担うベンチャー企業家の数多くの誕生を願います。ベンチャーに関しては,「ファースト・ムーバー,アドバンテッジ」「ファースト・ムーバー,トップシェア」の法則があります。最初に動いたものが有利性を持つ,最初に動いたものがトップシェアをとるという意味ですが,「即戦実行」が成功の秘訣です。
 
さて,待望のブロード・バンドのユビキタス社会が到来してきました。ユビキタスというのは「いつでも,どこでも,同時に存在する」という意味で,時空を超えた神の存在表現として,古来から使われてきた言葉です。いつでも,どこでも,誰でも,同時に情報を入手できることから,高度情報化社会はユビキタス社会と呼ばれるのです。
 
京都コンピュータ学院は,日本最初のコンピュータ教育機関として誕生し,38年の間に卒業生約3万5千人を送り出しました。卒業生たちは,情報化社会の推進役となり,情報化社会繁栄の担い手となりました。大型機のソフト開発,パソコンのハード・ソフト開発,マルチメディア創造,ゲーム製作などで,各時代を創っていったのです。
そして今,IT革命の推進役として国内外で活躍しています。
 
本日,入学した皆さん,在学中に強い技術力の養成とともに,柔軟な思考力と鋭い感性に磨きをかけてください。さらに,時代・社会の動向を洞察し,生きる道を考えなければなりません。
「情報と頭脳」の時代に,ユビキタス社会の担い手となって羽ばたいて行けるよう,明日からの学院生活を有意義に展開していってください。
 

 

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