学院長 長谷川 靖子


 
学院長写真 京都大学理学部宇宙物理学科卒業(女性第1号)。
京都大学大学院理学研究科博士課程修了。
宇宙物理学の分野でコンピュータを利用した日本最初の学者のひとり。
東京大学大型計算機センター設立時に,テストランに参加。
東京大学大型計算機センタープログラム指導員。
京都大学工学部計算機センタープログラム指導員。
京都ソフトウェア研究会会長。
京都学園大学助教授。
米国ペンシルバニア州立大学客員科学者。
現在,学校法人京都コンピュータ学園理事長 ,京都コンピュータ学院学院長。


入学を志すみなさんへ

I.Webコンピューティング全盛時代を迎えて

 コンピュータ,インターネットの急激な進歩・普及により,500年単位といわれる巨大な社会変化がハイスピードで起こっています。時代は,工業化社会から,高度情報化社会,デジタル化社会へ入り,IT革命ブームが世界を席巻しています。

 機械を主体とする工業化社会では「製品」が商品でした。しかし情報・知識を主体とする「高度情報化社会」では,どうサービス化するかがビジネスの中心課題であり,「知識」「サービス」が商品です。顧客のニーズをキャッチして,ITによりシステム化し,そのサービスの対価としてお金を得るというソリューションビジネスがビジネスの主流となりました。

 創造的な思考と直感のもと,卓抜したアイデアで新しいビジネス・モデルを創り出さねばなりません。技術者に対し,技術と同様に創造性・柔軟性を持った頭脳を求めるのがIT時代なのです。

 インターネットの発達につれ企業の社会形態も大きく変容しました。従来の企業間の外壁を越え,流動的に横社会と連携し,ビジネスを強化していこうという,いわば企業間のシームレス化が実現してきています。合理化・効率化をめざしての企業間システムの相互利用,ナレッジの共有による戦略相互強化などが進みました。シームレス化による「所有のシステム」から「利用のシステム」への移行は,インターネットの普及につれ加速度的になり,ITアウトソーシングが企業ビジネス発展のプラットフォームとして活性化し始めました。

 iDC(インターネット・データセンター)やMSP(マネージメント・サービス・プロバイダー)のように,システム・インフラを提供するアウトソーシングサービスや,アプリケーションの期間貸しをサービスするASP,またストレージ(大容量データ記憶)に特化したアウトソーシングサービスSSPの登場などが新しいビジネスとして誕生したのです。

 さらに,インターネットの普及とブロードバンド化が進み,eビジネスが急速に拡大する中,企業は一層の効率化,最適化を求めてWebテクノロジーを生かしたビジネス・プロセスの変革に取り組みます。

 その一環として,情報システムの統合 − インテグレーション − が活発に進められています。企業内,各部門でのITシステム化が一応終了したあと,様々な部門で利用されているアプリケーションの統合化,部門間のデータ共有,ナレッジ共有の合理化をめざして,企業内システム統合がミドルウェア等の利用で実現されています。求められているのは各システムのリアルタイムの連携と,従業員間での必要な情報の共有です。システム統合を通して,業務の効率化,生産性向上が顕著になりました。

 対外的には,顧客・サプライヤー・パートナーとの企業間ビジネスプロセスのシステム統合もSOAPによるWebサービスなどで実現していっています。システムのダイナミックな統合は,そのままダイナミックなビジネスへとつながります。巨大なビジネス・チャンスが生まれているのです。

 また本社・支社・工場といった営業・活動拠点を,機密保持のネットワークで接続するための新しいソリューションとして,IP-VPN,インターネットVPN(仮想閉域網)などが開発され,インターネット上に特定のユーザ専用のネットワークを仮想的に構築する技術が利用されるようになりました。

 距離に影響されないため海外拠点を含めたグローバルな情報ネットワークをプライベートなものにして構築できること,各拠点内のイントラネットとの融合が容易であること,またモバイルなどを使って社内ネットワークに接続できることなどの有利性があり,従来と違ったビジネスが実践できることから,IP-VPN,インターネットVPNは,新しいソリューションとして,強い関心を集めています。

 このようにしてブロードバンド化の進行,,eビジネスの発展に伴って,Webサービスは次々と新規開発・利用され,その影響を受けて企業で利用されるネットワークとシステムのIP化が急激に進み,現在インターネットに展開されるPC中心のWebコンピューティング世界は,全盛を極めています。

 以上,述べましたように,対顧客ビジネスの変容,企業間連携,アウトソーシング等による「所有のシステム」から「利用のシステム」への企業経営の移行,企業内各部門のIT化から企業内各部門・各支社とのシステム統合,対外的には顧客・複数パートナーとの企業間のシステム統合に見られるビジネスプロセスの変容がここ十数年間でドッグイヤーにたとえられるほどのスピードで起こっているのです。この間,日本は経済不況にあえぎ続けました。そして,現在のWebコンピューティング世界は,アメリカの独壇場になっています。

 2001年1月,e-JAPAN構想が発表されました。世界最高水準のITインフラ構築,中小企業に対するeコマースの推進などが重点として含まれています。

 現在の日本は世界的に見て,決してIT先進国とは言えません。しかし,光ファイバーの技術においては,日本は世界最高であり,インフラ管路の整備は,官主導において確実に進められています。そのインフラに乗ったところで,企業は大きなビジネスチャンスを持つため,優秀な技術者に対し急速なニーズが生まれるのです。

 情報システム・アーキテクチャーは,メインフレーム・システムからクライアント・サーバー・システムへ,そして現代のインターネット技術をベースとしたWebコンピューティング・システムへとパラダイム・シフトを遂げるにいたったのですが,次のパラダイム・シフトはユビキタス環境です。

 コンピュータや携帯端末,携帯電話,PDA,カーナビ,デジタルカメラ,情報家電などの多様な機器がIP技術によって,ブロードバンド・ネットワークに結ばれ,しかも,いつでもどこでも必要な情報にアクセスすることができることから,ユビキタス・ネットワーク環境から,これまでにない社会システムの大きな変容が生じるでしょう。これらの分野には,他国の追随を許さない日本の技術分野も大きく介在し,またeビジネスも新しい様態で登場することが予想できます。

 みなさんにとっては活躍の場が大きく未来に横たわっているのです。

 以上,述べました社会洞察・時代展望から,みなさんはどのような才能を時代・社会がもとめているかおわかりでしょう。その上でみなさんは進路として生きた頭脳育成の学校を選ばねばなりません。

 

II.時代を担う情報処理技術者を目指して

 明治以来,文部行政の高等教育方針は「知識の伝授・吸収」でした。工業化社会においてこの教育は,確かに効果を発揮しましたが,この類型的な教育パターンでは,デジタル社会が求める「生きた頭脳」は育ちません。今,時代の流れ,社会の変化は,「知識の伝授・吸収」から「創造性育成」への教育改革を要請しています。

 スイスで出版されている「世界競争年鑑」の「大学教育が時代に適合しているか」の項目で,日本は最下位の評価になっています。現在,日本では画一主義教育崩壊の時代潮流の中で,文部科学省による日本の大学の護送船団方式が見直され,大学の特殊法人化がすすめられています。時代は,教育方針・教育内容においてデジタル化社会向けの大変革を要求しています。自主独立型・デジタル化型の新時代に応えられない大半の大学が崩壊の趨勢にあるのは必然の現象といえましょう。少子化現象の加速も考慮して,25%に近い大学が淘汰されると言われていますが,過言ではないでしょう。すでに今年17大学・短大が学生募集停止に踏み切りました。一方,私たちの学院は,大学卒業者・短大卒業者,大学中退者の入学が増加しています。

 京都コンピュータ学院は,40年前,コンピュータ幕開け時に,"新時代を創ろう"という情熱においてスタートした日本最初のコンピュータ教育機関です。創立以来,ソフトウェア開発が創造作業であることを重視し,単なる「知識・技術の伝授・吸収」でなく,「創造性育成」をモットーとしてきました。40年間に送り出した卒業生3万6千人は,情報化社会の推進役となり,情報化社会繁栄の担い手となりました。大型機のソフト開発,パソコンのハード・ソフト開発,マルチメディア創造,ゲーム製作などで,各時代を創り,そして今,IT革命の推進役として国内外で活躍しています。

 これらは本学院が,創立以来,掲げてきた"時代を担う創造性豊かな情報処理技術者の育成"という教育理念の実現結果なのです。

 本学院への海外政府高官(教育,技術関係)の視察や,欧米一流大学の学者の訪問,内外政府の要請に基づく外国研修生の受け入れが活発なことも,他校には見られない現象です。本学院が「技術創造立国日本」のコンピュータ技術教育を代表する場であるという評価が定着していますが,これは本学院が創立以来,独自の教育理念に真摯に取り組んできた努力の結果であるのです。

 コンピュータ技術者を目ざすみなさん,みなさんは特化したコンピュータ技術を持ち,その上でIT総合技術を考え,さらに,テクノロジーの側からだけでなく,人間,社会,時代のビジョンにおいてコンピュータを眺め,考えることが肝要です。IT革命の波にいち早く乗り,それを教育に反映し,生きた頭脳を育成する学校を,自らの進路に選ばねばなりません。社会が求めているのは,もはやコンピュータ・オタク族でなく,"時代を創る"時代の旗手としての,また次世代文化の創造者としてのコンピュータ技術者なのです。

 過去40年間,日本情報教育のパイオニアとして「明日の力」を育ててきた伝統と実績があるからこそ,情報と頭脳の時代,ユビキタス社会へ向う「時代を担い,時代を創る力」を,本学院は育てることができると確信いたします。

 

III.フロンティア・スピリットこそ学院精神

 次に,本学院の先駆性を歴史の中に探ってみましょう。

 本学院は,40年前,コンピュータの幕開け時に,やがて来る情報化時代を先見し,全国に先駆けて情報処理教育をスタートさせました。日本国内では,当時,まだ先例のない教育であったため,教育界,業界で一大センセーションを巻き起こしました。

 1966年,東京大学で国産大型機第1号が稼動し,その後,1970年代にかけて徐々に大学にコンピュータは導入されていきましたが,これらはすべて学術研究用でした。従って,本学院が"教育実習"を目的として1972年,大型システムを導入し学生に自由に開放させたことは異例の現象でした。

 さらに,1970年代後半,超大型機TSS(タイムシェアリングシステム)は,全国の大学併せても,十指に満たない稼動状況でしたが(勿論研究用),他大学に先駆けて,また専修学校のトップを切って,1979年,教育実習用として,本学院超大型機 TSSは稼動したのです。

 1983年,パソコン時代開幕と同時に,3000台のパソコンを特注,学生に一人1台所持させましたが,これは世界初の制度でした。

 1980年代後半より,国際化の波が日本列島をおおいました。本学院は1988年,アメリカ学術文化の中心ボストンに京都コンピュータ学院ボストン校を設立。同時に新設した国際情報処理科の海外研修の場として使用し始めましたが,これは情報関係の海外校第1号でした。

 1989年より始められた本学院の海外コンピュータ教育支援活動(パソコンの大量寄贈と,現地教員養成を一体化した教育支援)は,世界の国際貢献の中でも前例のないプロジェクトであり,対象国は10ヶ国に達し,各対象国において画期的な教育革命を促しました。本学院の使用済みのパソコン約3000台が,発展途上国のコンピュータ教育振興に甦ったのです。本学院の創立以来,継承されてきたフロンティア・スピリットは,世界をフィールドに,発揮されているのです。

 かつて,本学院を巣立っていったみなさんの先輩達は,各企業内でコンピュータ技術のパイオニアとして活躍し,日本情報化社会繁栄の推進力となりました。また,日本政府から海外へ派遣され,その国の情報化に貢献してきた先輩もたくさんいます。これら先輩達のフロンティア・スピリットは,まさに本学院のアイデンティティの継承です。

 1993年,感性情報教育の充実を考え,マルチメディア芸術工学で著名なニューヨーク,ロチェスター工科大学(RIT)と協力体制を組み,芸術系情報学科を設立,1996年3月RITとの姉妹校提携が調印されました。この提携は,アメリカの豊かなマルチメディア文化・風土をそのまま本学院へ移植し,醸成しようと意図したものです。また,専修学校とアメリカ一流大学との姉妹校提携は日本初と言われています。

 現在,日本では「IT」という言葉がマスコミに連日頻繁に登場していますが,5,6年前には皆無といっていい状況でした。また,日本のどの大学にもIT学科は存在していませんでした。1998年2月,本学院は,いち早く,IT革命時代の到来を先見し,RITにおけるIT学科とベンチャー・プログラムを作成しました。これは,日本の大卒者を対象に,RIT大学院IT学科の前期課程を本学院で履修するものであり,日本初の企画としてマスコミに大きく取り上げられました。続いて今年,RIT学部編入コースが学院内に新設され,高卒の学院入学者のRITへの学部編入が実現しました。

 これら学院の歴史に,学院のアイデンティティとしてのフロンティア精神,パイオニア精神が脈打っています。

 入学を志すみなさん,入学後は10年20年の風雪に耐える本物の技術習得と共に,本学院の様々な文化を吸収してください。

 京都コンピュータ学院とあなたの出会いは,あなたという人間を,あなたの人生を変えるであろうと信じます。


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Revised: July. 1, 2003
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