中秋の名月  

   名月や 池をめぐりて 夜もすがら   芭蕉
   名月を 取ってくれろと なく子かな  一茶

わが国には,名月満月をもとに作られ親しまれてきた文学作品がたくさんあります。誰もが知っているこれらの俳句のほかに,古くは「万葉集」や「百人一首」の中の和歌や,満月がフィナーレである「竹取物語」などなど・・・。
 毎月の満月の中でも秋の中頃は空気が澄んでいて,最も美しい満月が見られるので,古来,旧暦8月15日の夜の月を「中秋の名月」と呼んできました。旧暦では7月8月9月が秋で,その真ん中の日,8月15日を中秋と,また秋3ケ月の真ん中の月,8月を仲秋と呼んでいました。だから「仲秋の名月」より「中秋の名月」と書いた方がふさわしいといえるでしょう。もっとも実際には両方使われています。
 平安時代初期に,中秋の夜に月を眺めながら宴会をする風習ができました。これは観月宴とか月の宴と呼ばれ,当時の公家たちは月を見ながら即興で和歌を読み,その出来をみんなで評価しあって酒を飲んで楽しみました。藤原道長も
   この世をばわが世とぞ思ふ望月の 欠けたることもなしと思へば
という傲慢な歌を詠んでいますが,これも満月を鑑賞して作った歌ですね。藤原実資の日記『小右記』によると、この歌が詠まれたのは寛仁二年十月十六日(1018年11月26日)だそうで,実は十月の十六夜月でした。ちょっと寒いお月見ですが。庶民がお月見をするようになったのは江戸時代になってからで,月の見える所にすすきを飾り,月見団子,里芋,枝豆などを盛り,お神酒を供えるようになりました。
 ところで「中秋の名月」は必ずしも満月ではありません。むしろ翌日の夜のほうが月は丸いことがよくあります。旧暦の8月15日とは秋分直前の新月の日(その日が旧8月1日)の14日後であり,2010年の場合は現行暦に直すと9月22日でした。満月とは「月が地球からみて太陽の反対側に来た瞬間」で,その現象は23日の18時17分に起りました。2000年からの旧暦8月15日と満月という瞬間を含む日は下表の通りで,ここ3年間は中秋の名月の夜に満月が眺められますが,満月は十六夜(いざよい)の月であることが多いですね。名月の前後の月を注意して見てください。

月日 満月時刻 備考
2000 09/12 09/14 04:37 満月前
2001 10/01 10/02 22:49 満月前
2002 09/21 09/21 22:59

2003 09/11 09/11 01:36 満月後
2004 09/28 09/28 22:09

2005 09/18 09/18 11:01 満月後
2006 10/06 10/07 12:13 満月前
2007 09/25 09/27 04:45 満月前
2008 09/14 09/15 18:13 満月前
2009 10/03 10/04 15:10 満月前
2010 09/22 09/23 18:17 満月前
2011 09/12 09/12 18:27
2012 09/30 09/30 12:19
2013 09/19 09/19 20:17
月齢計算のページ

 地球にとって分不相応に大きな衛星である月は,夜空の光だけでなく海水の満干を通して,人間を含めすべての生物の生活にも大きな影響をおよぼしています。火星に行けばフォボス・ダイモスとい2つの小さな月が見えますが,大きいフォボスでも月の半分以下,しかも西から昇りわずか4時間後には東へ沈むというあわただしさです。またダイモスは恒星と見間違えるほどの小さな衛星です。もし月が火星のフォボスやダイモスのような小さな衛星だったら,私たちの歴史は随分味気なくさびしいものだったことでしょう。