こんどはホンマ!? 第十惑星

 2005年7月30日(土)に「第十惑星の発見」と言うニュースが飛び込んできた。この新天体は冥王星(直径2250km)より1.5倍も大きく,トンボーの冥王星発見(1930)以来の快挙とTVでも報道された。だれもが「ほんまかいな」と思いつつ,天文教育研究会のMLでは何本ものメールが飛び交った。それは2003UB313いう仮符号で登録され,現在,太陽から97AUの距離にあり18.9等とのこと。
 思えばこれまで,「第十惑星の発見」と言うニュースは何度もあった。1992年に発見された1992QB1はサイズが約250kmで冥王星よりはるかに小さく,「惑星」とは認められなかったが,その後のカイパーベルト天体(KBO)の発見の導火線になったのは有名な話だ。その後も1996TL66・・・などなど。特に昨年話題になった最遠の太陽系天体といわれるセドナは直径1600〜1800kmという最大のKBOであが,それを上回るらしい。ところが小惑星のサイズは直接測れない。わかるのは絶対等級(太陽からも地球からも1AUとしたときの等級)で,それが−1.1とは確かに明るく,ケレス(3.4)も冥王星(−1.0)も抜いてしまう。ちなみにBiwakoなど普通のメインベルト小惑星では12〜13等である。もし表面が雪や氷で覆われ,反射率が高ければ小サイズだろうが,表面は冥王星のようで直径は3000kmにも達するという(参照)。さらに同じ日に直径1575kmという大きなKBOである2003EL61が発見された。どうやら大型の小惑星はカイパーベルトの中にたくさん潜んでいるようだ。
 大型かどうかはサイズだけでなく,質量をも比べてみなければわからないが,なんとか求まらないものか。幸いこの小惑星2003UB313に衛星があるらしく,不確かながら母惑星から地球・月の約10分の1の距離を2週間くらいで公転しているという。衛星の公転周期と母惑星との平均距離がわかればケプラーの第3法則により母惑星の質量が計算できる。その結果は2003UB313の質量は冥王星の0.8倍,すなわちほぼ同じ値で,ケレスよりは2桁大きい。
 衛星を持つ小惑星は現在多数知られており,精度はよくないが母惑星との平均距離 a(km)と公転周期 p(日)のデータも得られているという耳よりの情報を天究館で井田氏から聞いた。 そこでJohnstonに載っている値を使って同様な手続きより72個の小惑星の質量を求めた。表はそのうちのビッグ5であり,最右列の値が冥王星との比である。ちなみに地球の値は約400である。メインベルト,KBOの72個中,冥王星の100分の1以上の質量を持つものは2個しかなく,それらは上記の2003UB313と2003EL61であった。こうなると2003UB313だけを特別視して「第十惑星」の名称を授与することは非常に難しくなる。いやむしろ,冥王星・2003UB313・2003 EL61・セドナ・さらに今後見つかると期待される大型KBOをまとめて,惑星でも小惑星でもない新しいグループ名をつけたほうが合理的かもしれない。ただし「水金地火木土天海冥」や「ナインプラネッツ」という言葉は定着していて,いまさら冥王星を「惑星」の地位から格下げすることはできないだろう,と思っていたら2006年8月24日,IAU総会決議で冥王星は惑星から外れ,惑星は海王星までとなった。その結果「第十惑星」という言葉もなくなり,2003UB313は小惑星番号136199が付番され,不和・争いの女神エリスの名が付けられた。
 ところで第十惑星を「10番目に発見された惑星」とすれば,はたして何だろう。水星・金星・火星・木星・土星は太古から知られていて,いつだれが発見したのかということは問題にならない。地動説の確立で地球も惑星となったが,地球は発見されたわけではないので,ここでは含めない。6番目に発見された惑星はいうまでもなく天王星(1781年)である。それ以降は惑星をどのように定義するかによって異なるが「太陽の周りを公転して彗星ではない天体」を惑星とすると,19世紀になってからケレス(1801年),パラス(1802年),ジュノー(1804年),ベスタ(1807年)という小惑星が見つかっているので,第十惑星はベスタとなる。なお,天王星も海王星も17世紀からガリレイをはじめ何人かが,惑星であるとは知らずに観測しているようだ。

[参考文献]
吉川 真『天文教育』9月号 2005
作花一志『天文教育』1月号 2006