おとめ (Virgo)
母神の嘆きと喜び


かつて,まだ神々と人々が一緒に暮らしていたころの話です。 この世のすべての穀物や果実の生育,収穫はデーメテル(別名ケレス)という女神がつかさどっていました。彼女にはペルセポネという愛娘がいました。ある日ペルセポネが仲間のニンフ(妖精) と一緒に花摘みをしていたところ,いきなり大地が裂けてそこから黒い4頭だての馬車に乗った死の国の神ハデス (別名プルート)が現れ,あっという間にペルセポネをさらっていきました。ペルセポネは地下の死の国のお妃に なったのです。娘を失ったデーメテルは悲しみのあまり谷間の洞穴に閉じこもってしまい,誰とも会わなくなりました。さあ大変,大地は荒れて,草木は育たず,穀物は実らず,生けとし生きるもの飢えに苦しみました。人々は, 女神の苦しみを取り除くため,何とかペルセポネを地上に返してもらうよう,大神ゼウスに訴えました。 ゼウスはハデスに使者を送りますが,ハデスはなかなか命令には従いません。彼女は死の国のざくろを4粒食べた ので,1年のうち4ケ月は地下の自分の国で暮らすことという条件付きで,しぶしぶ妻を返すことを認めました。 ペルセポネが地上に戻って来ると,デーテメルは喜んで洞穴から飛び出して来ます。すると大地は蘇り,草木はすくすくと育ち,鳥は伴侶を求めて歌います。春が来たのです。ところが8ケ月経つとペルセポネは地下の国へ行ってしまうので母神はまた洞穴に閉じこもってしまい,この世は冬になってしまうのです。 おとめ座は左手に豊作の象徴である麦の穂を持ったデーテメルの姿として描かれています。「母親なのにおとめとはおかしい 」なんて言わないで! 麦の穂に当たるところに青く輝く星スピカ はギリシアのみならずエジプトでもバビロンでもインドでも女神を表す星とされてきました。