いて座とへびつかい座物語  戻る

 夏の夜空には天の川が南北に流れ・・・というのは昔話になってしまいました。南の空,天の川が最も濃いところにいて座が,その北にはへびつかい座がさらにヘルクレス座と続きますが,これらの星々を近畿で見ることはもはや絶望的です。せめてこの物語を読んで天空の師弟の姿を思い浮かべてください
中西久崇作  へびつかいといってもインドの蛇使いとは大違いで,ギリシアでは医師を表します。なぜなら再生不死の象徴である蛇を扱うからです。へびつかい座は医師の祖アスクレピウスの姿です。彼はアポロンの子で,実は生まれる前に一度死んでいるのです。アポロンは何番目かの妻コロニスの不貞を許すことが出来ず(なんと身勝手な!),彼女を弓で射殺してしまいますが,コロニスのおなかの中には彼らの赤ん坊がいたのです。アポロンはその子だけは助けたいと思い,ケンタウロス族のケイロンに託しました。ケンタウロス族とは上半身は人間で,下半身は馬という化け物で,しばしばギリシアを襲っては略奪を繰り返すので,人々は恐れていました。きっと馬を知らなかったころのギリシア人は北方騎馬民族を恐れてこのような動物を考え出したのでしょう。しかしその中でケイロンだけは文武両道に秀でたケンタウロスとして,神々からも人々からも尊敬されていました。彼は弓の名手で,アスクレピウスの他にも,ヘルクレス(ヘルクレス座),カストル(ふたご座),イアソン(アルゴ船)などの若者を育てています。
 ケイロンはその胎児を蘇生させ,養育し,そして学問特に医術を授けました。やがて成人したアスクレピウスはギリシア随一の名医になりました。彼に治せない病はなく,戦いで怪我をした兵士や瀕死の病人をたくさん救います。やがてこの名医は死者をも蘇らせる治療をするようになりました。しかしこれは自然の摂理に違うことで,人間がしてはならないことだったのです。死者が来なくなった死の国の王ハデスは激怒し,ゼウスに訴えます。ゼウスもアスクレピウスを許しておくわけにはいかず,しかたなく彼の頭上に雷を落して致命傷を与えます。さすがの名医も自分自身を治すことはできませんでした。これは筆者の好きなギリシア星物語のひとつです。
 なお,アスクレピウスの息子や娘たちはいずれも医術に関わっており,その子孫には医学の父と称されるヒポクラテス(紀元前400年ころ実在)がいるそうです。